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by gios585
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【文学】F・スコット・フィッツジェラルド著『The Great Gatsby』の結末部分の翻訳。

こんばんは、SURGE ABEです。

先日の記事で、『The Great Gasyby』の冒頭部分の翻訳の違いを見てみましたので
今回は結末の文章の翻訳を見てみたいと思います。






The Great Gatsby (Penguin Popular Classics)

F Scott Fitzgerald / Penguin Classics

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原文はこちらで読むことができます

And as I sat there brooding on the old, unknown world, I thought of Gatsby’s wonder when he first picked out the green light at the end of Daisy’s dock. He had come a long way to this blue lawn, and his dream must have seemed so close that he could hardly fail to grasp it. He did not know that it was already behind him, somewhere back in that vast obscurity beyond the city, where the dark fields of the republic rolled on under the night.

Gatsby believed in the green light, the orgastic future that year by year recedes before us. It eluded us then, but that’s no matter—to-morrow we will run faster, stretch out our arms farther. . . . And one fine morning——

So we beat on, boats against the current, borne back ceaselessly into the past.


1.野崎孝訳『グレート・ギャツビー』

グレート・ギャツビー (新潮文庫)

フィツジェラルド / 新潮社

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 そうしてぼくは、そこに坐って、神秘の雲につつまれた昔の世界について思いをはせながら、ギャツビーが、デイズィの家の桟橋の突端に輝く緑色の灯をはじめて見つけたときの彼の驚きを思い浮べた。彼は、長い旅路の果てにこの青々とした芝生にたどりついたのだが、その彼の夢はあまりに身近に見えて、これをつかみそこなうことなどありえないと思われたにちがいない。しかし彼の夢は、実はすでに彼の背後になってしまったことを、彼は知らなかったのだ。ニューヨークのかなたに茫漠とひろがるあの広大な謎の世界のどこか、共和国の原野が夜空の下に黒々と起伏しているあのあたりにこそ、彼の夢はあったのだ。
 ギャツビーは、その緑色の光を信じ、ぼくらの進む前を年々先へ先へと後退してゆく狂躁的な未来を信じていた。あのときはぼくらの手をすりぬけて逃げて行った。しかし、それはなんでもないーーあすは、もっと速く走り、両腕をもっと先までのばしてやろう……そして、いつの日にかーー
 こうしてぼくたちは、絶えず過去へ過去へと運び去られながらも、流れにさからう舟のように、力のかぎり漕ぎ進んでゆく。

(P.252~253)


2.村上春樹訳『グレート・ギャツビー』

グレート・ギャツビー (村上春樹翻訳ライブラリー)

スコット フィッツジェラルド / 中央公論新社

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 そこに座って、知られざる旧き世界について思いを馳せながら、デイジーの桟橋の先端に緑の灯火を見つけたときのギャツビーの驚きを、僕は想像した。彼は長い道のりをたどって、この青々とした芝生にようやくたどり着いたのだ。夢はすぐ手の届くところまで近づいているように見えたし、それをつかみ損ねるかもしれないなんて、思いも寄らなかったはずだ。その夢がもう彼の背後に、あの都市の枠外に広がる茫漠たる人知れぬ場所にーー共和国の平野が夜の帷の下でどこまでも黒々と連なり行くあたりへとーー移ろい去ってしまったことが、ギャツビーにはわからなかったのだ。
 ギャツビーは緑の灯火を信じていた。年を追うごとに我々の前からどんどん遠のいていく、陶酔に満ちた未来を。それはあのとき我々の手からすり抜けていった。でもまだ大丈夫。明日はもっと速く走ろう。両腕をもっと先まで差し出そう。……そうすればある晴れた朝にーー
 だからこそ我々は、前へ前へと進み続けるのだ。流れに立ち向かうボートのように、絶え間なく過去へと押し戻されながらも。

(P.325~326)


3.小川高義訳『グレート・ギャッツビー』

グレート・ギャッツビー (光文社古典新訳文庫)

F.スコット フィッツジェラルド / 光文社

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 私は砂に坐って、遠い昔の未知の世界に思いを馳せながら、デイジーの家の突提に初めて緑の灯を見たギャッツビーの感動を思った。青々とした芝生にたどり着くまでには、長い道のりがあったはずだ。ここまで来たら、ほんの少しで夢に手が届きそうで、つかみ損なうことがあるとは考えなかったろう。夢が後ろにあるとは思いもよらなかった。もう夢は、都会の向こうに広がる巨大な闇、この国の暗い原野がうねって続く夜の世界へ行っている。
 ギャッツビーは緑の灯を信じた。悦楽の未来を信じた。それが年々遠ざかる。するりと逃げるものだった。いや、だからと言って何なのか。あすはもっと速く走ればよい、もっと腕を伸ばせばよい……そのうちに、ある晴れた朝が来てーー
 だから夢中で漕いでいる。流れにさからう舟である。そして、いつでも過去へ戻される。

(P.294~295)



ニック・キャラウェイが父から助言を授けられたところから始まり、ニックがギャツビーとの交流を通じて知りえた、人間が追い求めてしまう夢の残酷な一面を明示して終わります。

色鮮やかな文章の中に人生訓や格言が織り込まれている点が、米国文学の古典として現在でも燦々と光輝いている理由なのかもしれませんね。


柳瀬尚紀さんや柴田元幸さんの翻訳でも読んでみたいです。


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by gios585 | 2009-10-21 20:25 | 文学